武蔵美人むさびと

企業で活躍する若手 OB・OG 紹介 “むさびと”

シチズン時計株式会社幸田拓真
シチズン時計株式会社幸田拓真
シチズン時計株式会社幸田拓真

取材:2016年6月

幸田 拓真(こうだ・たくま) 2011年、基礎デザイン学科卒業。
主に、北米市場に投入される製品デザインを担当する他、ミラノサローネのブースデザインや『エコ・ドライブ40周年』のロゴデザインなども担当。

ライフスタイルも嗜好も異なる人の心に
響くデザインを届けたい

 広く市民に愛されるように。そんな願いを込めて 『CITIZEN』と名づけられた懐中時計が誕生したのは、1924年のこと。1918年に尚工舎時計研究所として創業して以来約100年の歴史を重ねてきたシチズンは、日本が誇る時計ブランドとして世界中で高く評価されている。
 同社に入って6年目を迎える幸田さんの現在の主な仕事は、北米で販売される腕時計のデザイン。まさに世界市場の最前線に投入されるプロダクトが、彼の頭の中から生み出されている。

 「同機能・同価格帯の製品であっても、市場が違えばデザインも変わります。国内向けだと高性能ですっきりと上品な印象の時計が高評価ですが、北米ではもっと大ぶりで目立つものが人気です。具体的には、こんな感じで」と見せてくれたのは、これから北米市場デビューするという2つの時計だった。
 重厚に輝くケースに、深い藍色の文字盤を合わせた高級感のあるデザイン。そこに同社の最新技術であるGPS機能を搭載した光発電の腕時計は、2016年のトップモデルとなる高額商品。そしてもうひとつは、メタルバンドとウレタンバンドの、2種類のバンドが簡単に交換できる商品だ。TPOに応じて楽しめるというコンセプトだけでなく、タックルボックスのような専用の収納ケースも、幸田さんが提案し、採用された。
 「高額商品なら、やはり価格に見あう質感や機能が求められますし、カジュアルなものならば遊び心や所有欲をくすぐるギミックが受ける。購入者の暮らしやトレンドを理解して、心に響くデザインを考え出すのが難しさであり面白さですね」。
 その意図がきちんと通じていることは、昨年訪れたニューヨークの北米旗艦店で見たという、ウィンドウを覗き込んで熱く語りあう人たちの姿が証明しているだろう。

幸田さんがデザインした、
北米市場のトップモデル。

バンドを簡単に交換できるため、アウトドアからビジネスシーンまで対応。製品のコンセプトから売り方まで提案した商品。

時計という小さな製品の先に
広がっていく可能性のフィールド

 「時計というのは、精密な技術を限られたサイズの中に詰め込む工業製品であると同時に、美術品やファッションアイテムでもあります。“時計のデザイン=プロダクトデザイナーの仕事”と思われがちですが、文字盤は平面ですし、時計にはファッション性も求められます。
 僕は武蔵美時代、基礎デザイン学科で幅広くデザインを学びました。平面・立体・空間・セールスプロモーション…、この小さな製品に、僕が学んだあらゆるデザインの知識や感性をぶつけることができるんです」。
 そんな幸田さんの情熱に応えるように、会社はもっと広い活躍の機会を次々と与えてくれた。たとえばイタリア・ミラノで開催されるデザインウィーク出展ブースの制作や、40周年を迎える『エコ・ドライブ』のロゴデザインには、彼が学んできた様々なデザインの経験やセンスが大いに発揮されている。
 「ブランディングの仕事もやりがいがあるし、商品コンセプトを考えるのも好き。こんなになんでもやりたがるデザイナーはあまりいないので、ちょっと変わり者だと思われてるかも」と笑う幸田さんだが、世界市場を見据え、時計のさらなる可能性を模索するシチズンとの出逢いは、きっと双方にとって運命的なものだったのだろう。

(左)武蔵美時代、銀座の老舗時計店のディスプレイコンペで賞を獲得。星座をちりばめた美しい展示で繁華街の注目を集めるとともに、幸田さんが時計の魅力に目覚めるきっかけとなった。

(右)世界が注目するデザインの祭典・ミラノサローネで大賞を受賞したインスタレーション『LIGHT is TIME』。
無数の地板がきらめく展示ブースの制作に携わった。

上司が語る武蔵美力

小松淳
カテゴリを越える積極性
小松 淳

デザイン部 部長
クリエイティブディレクター
時計修理技能士1級

 時を刻む最先端技術に、新たな形と価値を与えるのが、シチズンのテーマ。その目的を叶えるためには、いいものをつくるという以外にも、それをどう表現するか、伝えるかといったことが重要です。幸田さんは、そうした会社の課題に、自らアグレッシブに関わってくれる人材。本来のカテゴリを越えた業務にも前向きに取り組み、デザインで答えを出そうとする姿に、頼もしさを感じます。