武蔵美人むさびと

企業で活躍する若手 OB・OG 紹介 “むさびと”

株式会社丹青社大槻賢造
株式会社丹青社大槻賢造
株式会社丹青社大槻賢造

取材:2010年7月

大槻 賢造(おおつき・けんぞう) 2001年、空間演出デザイン学科卒業。
商空間事業部に配属後、規模の小さなショップから大型のテーマパークまで大小さまざまな商業施設をデザインしている。

“本質”を求める自問自答は
安易な選択を許さない

 “当たり前”に捉われるな。もっと良い方法や素材がないか、常に自問自答せよ。
 この精神を、大槻さんは武蔵美時代の恩師から学んだ。卒業して10年、彼の空間デザインの根底に、メッセージは息づいている。
 「既製品が溢れる今の時代、建材ひとつとってもありふれたものから選ぶのは簡単です。しかしひとつの世界観を築くには、安易な選択肢の枠を踏み越える覚悟がいる」
 大槻さんのこだわりを雄弁に物語るのが、横浜中華街に浮かび上がる『横浜大世界DASKA』に表現された、上海の古い街並みだ。ディスプレイに用いられた、看板や祭の装飾品、家具、金具。それらの素材はすべて、植民地時代の上海がまとっていた、混沌とした文化や空気を再現するため、現地で買い付けてきたものだ。
 「表面的なイメージだけでは物足りない。何気なくドアノブに触れた感触、料理の味、独特のにおい、そして人の熱気。この肌で感じたものを表現し、伝えたい」
 妥協しない精神と、本質に触れたいと願い、自ら動く貪欲さ。それが大槻さんの生み出す空間に深みを与え、訪れた人を別世界へと引き込んでいく。

(写真左)『横浜大世界DASKA』の3F内部。現地の裏路地に入り込んだかのような空間だ。
(写真右)細かな小道具まで試行錯誤の末に調達・配置され、“オールド上海”独特の怪しささえ感じられる。
物件写真撮影:ナカサ&パートナーズ

「そこで人は、なにを感じるか」を
鮮やかに描き上げる面白さ

 どれほどディテールにこだわっても、商業空間のデザインは“アート作品”ではない。その空間で人がどんな気持ちになるか。あるいはどんな気持ちにさせたいかという目的なくして、仕事は成り立たないのだ。そのためには、「空間と同時に、そこで展開されるストーリーをイメージすることが大事」だと大槻さんは言う。
 「たとえばバーのシチュエーション。男女が連れ立ってやってくる。しっとりと話し込むふたりは、そこでプロポーズするのかもしれない。とすれば、女性が美しく見える椅子の高さや、大人のムードを演出する照明などが、空間デザインには求められる」
 全面的にデザインを手掛けた『タイトーアミューズメントシティ郡山』も、そんな思考のプロセスを経て設計されたアミューズメント施設だ。黒・青を基調にした内装、落ち着いたライティング、メタリックな装飾。従来のファミリー向け店舗とは一線を引き、“クールな遊び場を求めるカップル” をメインターゲットとしたこの施設は、大きな話題を呼んだ。
 「自分は作家じゃない。そこで人が喜んだり、笑ったり、感動してもらえる空間を生み出すのが愉しくて、丹青社で働いているんです」
 大槻さんが創り上げる、エモーショナルな商業デザイン。その図面には、人々の活き活きとした表情や仕草までもが描き込まれている。

『タイトーアミューズメントシティ郡山』の全体イメージは近未来。
SF映画などから情報を収集したという。

上司が語る武蔵美力

荒木崇
いちデザイナーからゼネラリストへ
荒木 崇

商空間事業部 クリエイティブデザイン統括部
課長 チーフデザイナー

 時代が求めている“感覚”を読み、画が描ける。それが武蔵美で育った彼の長所です。普通は忙しくなると、外へ出たり、あるいは遊んだりする時間はとりづらくなりがちですが、彼はそれでも常に動く。見る。感じる。だから新しい感性を仕事に活かせるのでしょう。さらに彼はコミュニケーションもうまく、デザインを営業につなげることができる。いちデザイナーでなく、全体を見渡せる素質を秘めた人材です。