取材:2019年7月
吉澤 大起(よしざわ・たいき) 2016年、建築学科卒業。
在学中は設計に加え、インスタレーション、グラフィックデザイン、写真撮影など多様な表現に取り組む。
建築士の資格を持つ母の仕事ぶりに憧れ、武蔵美の建築学科を選んだ吉澤さん。しかし学んでいくにつれ、彼の関心は設計や建築よりも、展示表現やコンセプトメイキングへと移っていった。
その方向性を決定づけたのが、3年生のときの芸術祭だ。所属していたサークルの仲間と店舗設営に勤しんでいた吉澤さんは、ふと気がついたのだという。
「強い個性を持った仲間たちを、適材適所で配置してまとめあげる。いわばプロデューサーのような役割が、自分には合っていそうだなと感じたんです」。
美大生には、唯一無二の個性を磨いていくアーティスト志向の者もいるが、吉澤さんはひとりでは絶対につくれない規模やクオリティの作品を、チームで仕上げていくことに面白みを感じたのだ。
そんな自覚を持って臨んだ就職活動を経て、入社したのは凸版印刷株式会社。社名こそ印刷会社だが、事業領域は平面・立体・デジタルまで、果てしなくといっていいほど広がっている。彼がいま所属しているのも、企業の施設や展示会ブースのプロデュースを行う部署・スペースコミュニケーション開発部だ。
「入社1年目は展示会事務局の仕事に携わりました。武蔵美で学んだこととは全く異なる分野の業務で戸惑いもありましたが、多くの企業や取引先と関わり合うため、仕事をする上でのバランス感覚が養われました。とても貴重な経験だったと思います」。
そんな吉澤さんの代表作は、エコをテーマとした展示会で手がけた、子どもたちに“きれい”を考えてもらうための企業ブースだ。
「ひとくちに“きれい”といっても、清潔さと美しさでは意味が違いますよね。この展示は小学校高学年をメインターゲットにしたものです。大人への過渡期にある子どもたちに、自分の暮らしと地球環境、それぞれが“きれい”であり続けるためには何ができるか…を考えてもらうために、大いに頭をひねりました」。
こんなとき吉澤さんが思い出すのは、ゼミでの制作を通して気づいた“伝える=デザイン。問題提起=アート”という考え方だ。コンセプトと表現が近いほど伝わりやすくなるが、たとえ遠くても思考するきっかけになる。どちらが正しいという答えはないが、目の前のテーマにはどの距離感がよいのかを判断する基準となっている。
真っ白で清潔に見える家の模型をブラックライトで照らし、ばい菌の多い場所を探す。地球上の水をドラム缶1本分とすると、そのうち人間が利用できるのはどのくらいかを、身近な調理器具から選ぶ。子どもたちが能動的に考えるきっかけを展示の中に散りばめた。
楽しく学び、驚きながら知識を深めた子どもたちは、展示を通じて知った“きれい”を実現するため、明日からどんなアクションをしようと考えたのかを、紙やブロックに記して帰る。その言葉がまた、新たな展示として加わる…という循環し、対話を生むコンセプトは、クライアントから高く評価された。
「ブースをひとつつくるにも、僕のアイデアやコンセプトを、より洗練された形にブラッシュアップしてくれる制作担当がいて、施工担当がいて、当日運営してくれるスタッフがいて。みんなの力でつくり上げていくのが好きな僕には、とても合った仕事だと思います」。
チームの舵を取る面白さを知った武蔵美時代から、社会に漕ぎ出して早3年。吉澤さんの前途は洋々と開けている。
顧客の希望=自分のしたいこと
前向きさこそ愛される資質
大竹 啓文
情報コミュニケーション事業本部 トッパンアイデアセンター
スペースコミュニケーション開発部 課長
(1995年 武蔵野美術大学 造形学部 建築学科卒業)
とても楽しそうだな、というのが彼の仕事ぶりを見ていてまず感じること。クライアントの課題に対して、自分の考えた解決策や表現を提案すべく、何事にも興味をもって取り組んでいますね。そういう姿勢が、社内外で好意的に評価されているのでしょう。一緒に仕事をするのが楽しいと思わせる人柄は、チームを率いる者には欠かせない資質。知識と経験を吸収し、より大きな企画に関われるリーダーへと成長してほしいです。