取材:2016年6月
安田 紘基(やすだ・ひろき) 2014年、工芸工業デザイン学科卒業。
入社後は商環境事業本部で小規模店舗のデザインを多数経験。現在は同社内で新規事業開発のミッションを託されるとともに、複数のビッグプロジェクトに加わっている。(※所属や役職は2016年6月取材時当時)
武蔵美のOBで建築家の父を持ち、高校時代にはよく模型作りの手伝いをしていたという安田さんにとって、デザインはいつも身近に存在するものだった。いずれはデザイナーに…という目的を最初から持って進んだ大学で、彼は何人かの“武蔵美出身の憧れの人”に出逢う。その一人が、商業空間のデザイナーであるA.N.D.小坂竜氏だった。
「学生の身で気軽に行けるグレードの店は少なかったのですが、バーやショップなどにはできる限り足を運びました。行くたびに、その空間美や機能性にしびれましたね」と安田さん。
A.N.D.とは、AOYAMA NOMURA DESIGNの略で、乃村工藝社の中から商業空間部門で実績を持つ人財を集めたエキスパート集団だ。就活時、安田さんが同社を志したのも、A.N.D.の影響が大いにあったという。
「実は今ちょうど、小坂のプロデュース案件に参加しています。JA全農が銀座にオープンさせる神戸ビーフのレストランの、立ち上げメンバーとして」。
商業空間のデザインには、美しさや快適さのほかに、オペレーションや採算性を支えるという陰の役割がある。複雑かつ高度な要望をクライアントから訊き、時には自らも提案しながら、より多くの人を誘引する場所をゼロから形にしていく仕事を、入社3年目にして憧れの人と共に実現している。
その昂揚と充実感は、安田さんが描いた100枚以上に及ぶアイデアスケッチからも伝わってくる。
商業空間・企業PR施設やイベント・文化施設など、多彩な分野で年間約7,000件ものプロジェクトを手がけ、その80%がリピーターという同社は、日本屈指の実績を持つ業界最大手である。しかし、安田さんはそこで満足する気はないらしい。
「受身ではなく、自らクライアントに働きかけるような新事業を創造できたらと思っています」。
彼がそう考えるようになったきっかけは、毎年社内で行われている『NOMURA FUTURE AWARD』だった。ビジネスモデルや新規事業の開発または業務改善で、会社の未来をよりよくするためのアイデアを募集するこの企画では、優れた提案と認められると実施予算がおりる。安田さんがサポートメンバーとして参加したチームは、昨年度のビジネスモデル・新規事業部門で見事、グランプリを受賞。あらかじめ事業化を見据え、協力会社や管轄省庁への確認まで済ませて臨んだプレゼンは高く評価された。実施段階になってからはプロジェクトメンバーの一員となり、事業化に向けて動いている。
詳細はまだ明らかにはできないが、2020年の東京五輪に向け、再開発が進む東京の街角に賑わいを生み出すこのアイデアは、近い将来、道行く人々をあっと驚かせ、楽しませることだろう。
「僕にとってデザインは、新たな価値や感動を生み出すためのフィルター。でも、ただかっこいいだけでなく、その根幹に“なぜこのデザインなのか”というロジックを据え、具現化の手順までしっかり煮詰める癖というのは、武蔵美で叩き込まれたものだと思いますね」と、学生時代を振り返る安田さん。
自らの成長が、会社の発展やクライアントへの貢献につながるという確信が、そのまなざしを迷いのないものにしている。
説得力を生む自然な緩急
大石 久美子
商環境事業本部 クリエイティブ局
デザイン3部 第1ルーム
ルームチーフ/クリエイティブディレクター(※所属や役職は2016年6月取材時当時)
当社内には、優れたデザインスキルを持った人がたくさんいます。その中で安田さんをキラリと光らせているのが、プレゼンテーションの上手さ。丁寧に組み立てられたコンセプトを、自然な緩急をつけて語る姿がとてもリラックスしています。理論的で説得力があり、「ああ、学生時代からたくさん経験を積んできたんだろうな」と感じました。お客様の心を引きつけ、納得させられるデザイナーとして、将来を期待する若手です。