取材:2016年5月
松田 エリザベス 玲子(まつだ・エリザベス・れいこ) 2014年、視覚伝達デザイン学科卒業。
入社1年目はニュースバラエティ『サンデージャポン』でADを経験。2年目からはデザイナーとして『カウントダウンTV』『鶴瓶&松本の怪人図鑑』などのセットデザインを担当。
アーティストの存在感と、照明、カメラが加わり想像を超えた効果が生まれる瞬間にやりがいを感じている。
「武蔵美の思い出はたくさんあるけど、一番楽しかったのは芸術祭の準備。どんな企画なら楽しいかな、盛り上がるかなとアイデアをガンガン出しあって、一気にワッと作り上げる熱気がたまらなく好きで。テレビの仕事って、あの“芸術祭前夜感”がずっと続いているみたいなんです」と語る瞳が、スポットライトのようにきらめく。
現在TBSテレビで番組セットのデザインを担当している松田さんの毎日は、確かにとんでもない疾走感だ。入社2年目にして担当することになったのは、人気の歌番組。毎週土曜日、カウントダウン方式でヒットチャートを紹介しつつ、アーティストのライブを織り交ぜる番組は、2週間に一度収録が行われる。
「番組担当は複数いますが、1回分の出演者のセットはすべて一人のデザイナーが担当します。出演アーティストや曲目が決まるのが水曜、金曜の夕方以降に制作ディレクターと打ち合わせをしてデザインをまとめます。土日で模型やイメージ写真を制作し、月曜の昼にディレクターチェックを受け、OKが出たら夕方各社に発注。水曜に照明やカメラ、音声さんと演出的な打ち合わせをします。日曜には完成したセットをスタジオに建て込み、月曜朝からアーティストが入って収録、という流れが基本です」。
事もなげに語るが、最大6アーティスト分のアイデアを2日半でまとめるスピード感には驚くものがある。さらには、いかに予算内でまとめるか、実制作の負荷を軽減するかといった配慮も含めて、デザイナーの裁量のうちだというのだ。
こうした時間や予算の制限がある仕事というのはプレッシャーではないのだろうか。
「実は私、武蔵美時代から縛りがある案件の方が得意なんです。じっくり考える時間があると、こねくりまわした挙句つまらないものになっちゃうから。
絵を描くのが好きだなと自覚して美大を志すようになったのは中学生の頃ですが、当時から自分の長所は手の速さと頭の切り替えの速さだと思っていました。そのスキルにあった仕事に就けた私はラッキーなんです」と、松田さんからは意外な言葉が返ってきた。
自己分析能力に優れた人なのだ。
「音楽やバラエティのセットは、とにかくその瞬間、出演者を最高にかっこよく、素敵に見せるのが使命。使いまわしできないので、収録が終わったら廃棄されてしまいます。この一期一会なところも、お祭みたいですよね」。
一方で、彼女がまだ経験したことがないというドラマ担当デザイナーのやり方は、まったく逆になる。物語の世界観の基礎を担うセットは、長い準備期間をかけて作りこまれ、収録中にもどんどん深化していくものだからだ。
松田さんはまだ、入社3年目。いずれはどんな番組にも対応できるオールラウンダーをめざすことになるのかもしれない。しかし今は、出演者たちを最高に輝かせる、このドライブ感みなぎる仕事が楽しくてたまらない。さばさばとした言葉の端々から、そんな熱い気持ちが伝わってくるようだった。
一発目のレベルの高さ
太田 卓志
ビジュアルデザインセンター
デザイン部
松田さんは、初対面の人とも物怖じせずに向き合う度胸があり、コミュニケーションが得意な人。テレビ局のデザイナーは、ディレクターが求めるもの、出演者の個性などを把握した上で、自分のセンスを発揮しなくてはいけません。
打ち合わせの後、一発目に出してくるアイデアがとても高水準で、大きなリテイクを出されることが少ない点も、スピードが要求されるテレビの仕事にはぴったりの人材だと思います。